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行きたい時に行きたい現場に行く永遠のにわかオタク。全次元の男子バレー関連、若手俳優、隣国アイドル、J事務所、スケートなどを鬼の形相で追っています。

拝啓、全国の空を渇望した「覇気」たちへ ~春高大阪府代表決定戦~

 

 

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2019年6月16日、男子バレーボールのインターハイ大阪予選・ベスト4リーグ総当たり戦2日目。大阪府で最も強い4校だけがコートに残り、インターハイ大阪府代表がこの日の結果で決まる。

 

朝一番からの試合、常翔学園は全国大会上位常連の大塚高校をフルセットの戦いへと引きずり込んでいた。1セット目を先取されて第2セットでもリードを付けられたものの、慌てることなく淡々とその差を縮めていく。完全にスイッチの入った常翔は粘りに粘って逆転し27-25でセットを勝ち取った。会場が歓声で震えるのを感じた。メモを取っていた手は震えて何も書けなくなった。第3セットでも波に乗った常翔は試合後半まで大きめにリードを付けて大塚を追い込んだ、と思うや否や大塚がまた常翔を追い詰め返す。

一気にマッチポイントまで追い詰められた常翔のコートの中は、それでも冷静に見えた。広げられたリードをまたじわじわと縮めていく。息が詰まるような空気の中、常翔の選手が白帯スレスレの際どいサーブを打ち込み、互いに自陣に落ちそうなボールを拾っては打ち拾っては打ち、アウトになるかと思われたボールをフェンスを超えてでも拾い続け、見ているほうも瞬きを忘れるような張り詰めたラリーが続く。

 

 

「強いスパイクを打てる方が勝つんじゃあないんだ」「ボールを落とした方が負けるんだ 」の世界がそこにあった。

 

 

 

最後のボールはラリーの末に壁に阻まれ、常翔のコートに落ちた。

 

全国大会常連校を相手にどちらが勝つか最後まで予想の付かない戦いを見せた常翔学園のバレーに、一気に引き込まれた。

 

 

 

「覇気」の子たちを知ったわけ

 

 どんな戦い方をするチームなのか、どんな選手がいるのか。そもそもバレーファンでありながら彼らの存在すらも知らなかった自分が常翔学園の男子バレーを知ったのは、自分の追いかけているバレーボール漫画を舞台化した作品のキャストの中にそこのレギュラーで副主将だった人がいたのがきっかけだった。「どうやら全国大会まであと一歩という大阪の強豪でプレーしていたらしい」という話は劇団ファンの間で瞬く間に広がった。

 

大阪と言えば清風・大塚という全国大会でも上位を争うような超強豪が2校あって、やってみなければ分からないとは言えどその2校の壁はそれはまあ高く、大阪代表は大体そこが取ってくるだろうというのが高校バレーファンの間で半ば当たり前のように語られる話であることは自分も知っていた。なのでキャストの彼がそんな2校と争うような場所で戦っていたのだと知ったときは、惜しくもそこに届かずとも激戦区大阪で3位を獲るのだから、一体どんなバレーをするチームだろう?と気になった。

 

 

 

 

語られた「常翔バレー」と大阪府代表の壁

 

 2017年度の終わり、自分の応援していた高校バレー選手が卒業した。彼はなんとVリーグに進むことになり既に内定選手としてプレーし始め、更には卒業と共に全日本への登録まで発表された。これで学生バレーを追うことももうないかな、あるとしたらまだ見られていない常翔か気になっている鎮西か、と思っていた。

 

 

2018年夏、その年のインターハイが終わる頃。前述のバレーボール舞台キャストの彼が生配信中にめずらしく常翔のバレーについてたくさん話していて、普段あまりそういうことを多く語らない印象だったので興味深く話を聞いた。

 

「今年は母校が初めて春高で全国に行けるかもしれない」

春高に観に行くからOB会は行かないと宣言してきた」

「ビーチバレーでユース代表になっている選手がいる」

「OBが集まっても勝てないと思うくらいに歴代最強だ」

 

という後輩への期待から

 

「以前はMBがエースで点を稼ぐというスタイルが主流だったが今はレフトがエースで戦い方が多様だ」

 

 

という気になっていたチームのプレースタイルに関する情報。加えて「まあ俺は練習行って一発目でドシャットしたったけど」というORE SUGEEEE話まで(ぬかりない)。あまり母校のバレーについて多くを語らない彼がそこまで言うのなら、本当に春高で常翔が見られるかもしれない、と少し楽しみな気持ちになった。(全文→ 2018.07.30 高校バレーと大阪予選、母校の話 - 白鷲旗 

 

2018年11月、例のバレーボール舞台の公演を追いかけて全国5箇所をまわっていた頃、春高大阪府代表決定の知らせを聞いた。常翔は準決勝で清風と当たり、フルセットの激闘の末に3位敗退になったということだった。OBが歴代最強だと褒めた彼らもまた3位、大阪府代表2枠を掴み取る難しさを改めて知った。

 

2019年1月、鎮西高校を応援しに訪れた春の高校バレー準決勝の試合、センターコート。相手は常翔を倒してここまで勝ち上がったあの清風。鎮西なら大丈夫だ、という予想はあっという間に翻され、高校ナンバーワンスパイカーとも謳われる水町くん率いる鎮西の攻撃すら清風の壁は完璧に阻み続け、少しの隙も与えずストレート勝ちを飾った。結局清風はこの大会で春高準優勝まで上り詰めた。そりゃあ強かったわけだ。

後から知ったことだけれど、この試合を例のキャストの彼も会場に見に来ていたようで、彼の目に清風はどう映っていただろうと思った。

 

そして、それだけ強かった清風から春高予選でセットを取っていた常翔のバレーがどうしても生で見たくなった。

 

 

 

その後の話は冒頭に書いたとおり。インターハイの大阪予選を訪れた。初めて見る彼らの戦い方はとても多様で、サーブでの攻めや巧みなコンビバレー、セッターの攻撃参加意識の高さも目立つ。何より自分が思っていたよりもずっと常翔のコートの中は落ち着いていた。追い詰められた状況でもリラックスした表情で声を掛け合っているコートの中の様子を見て、会話がなくなったら終わりだとは学生・Vリーグ・全日本、カテゴリ問わずどのバレーの試合もよく言われることだと思い出した。

 

例のバレーボール漫画で全国3本指と言われるとある強豪のエースが「『こいつなら何かやってくれる』と思われるエースになりたい」と言っていたのを覚えているけれど、常翔のコートの中には誰か一人ではなく全体にそんな空気があるように感じて、目が離せなくなった。

 

 

 

 

閑話休題 -インターハイ大阪府3位決定戦-

 

清風・大塚に敗北した常翔にはあと一つ、近大附属との3位を決める試合が残っていた。少し時間が開くので一旦会場を出ようとしたところ、大塚との試合を終えた選手達が常翔の応援席に戻ってきて親御さんと話しているところに偶然出くわした。

「やられたわ」「でもよく拾ってたよ」

汗だくの彼らは悔しそうで、それでいてどこか吹っ切れたような笑顔に見えた。彼らの中には横断幕に掲げた「覇気」の闘志がまだはっきりと残っていた。

 

その後見た彼らの試合の支配力は凄まじいものがあった。近大附属を相手に真ん中からレフトからライトから、パイプ、ブロード、時間差、セッターの視線のフェイント、鮮やかなツー、あらゆる攻撃で近大附属を追い込んだ。相手に自由に攻撃をさせない硬いディフェンスラインも光る。緩やかに点差を広げ危なげなくストレートで勝利した常翔を見て、またひとつ春高予選が楽しみになった。

 

 

 

 

 

春高大阪府代表決定戦

 

2019年10月16日、この春にやっていた例のバレー漫画舞台の東京都代表決定戦公演のDVDが届いた。キャストの彼から「高校時代の部室の黒板には全国制覇と大きく書いて目標として掲げていた」「その時は行けなかったが数年越しにこの舞台で全国行きの切符を手にした」という話を聞いた。

それが全てとは言えないけれど、バレーボールに打ち込む人々の目指す先が「そこ」であることを改めて認識し、10日後に控えた彼の後輩たちの春高予選に向けてまた身が引き締まるような気持ちになった。

 

 

10月27日、春高大阪予選決勝ラウンド。常翔は第3シードとして参戦・危なげなく予選ブロックを勝ち抜き次週の大阪府代表決定戦へと駒を進めた。

 

 

 

11月2日、春高大阪府代表決定戦。再び集まった「大阪府で最も強い4校」の顔ぶれは、インターハイ予選の時と同じ清風・大塚・常翔学園・近大附属。そして常翔の相手はあの大塚だ。半年前にいい試合をした事を覚えていても「大塚だ」と思うと身構えてしまうところもあった。

 

が、その不安はやはり「いつもどおり」を貫く常翔のバレーの前に消える。

第1セットから大塚相手に引き離されずにしっかり食らいついていく。インハイ予選ではレフト起用されていたミドルの選手が元のポジションに戻り、今日はブロックもガンガン決まる。

リリーフサーバーで入った選手がサービスエースを決める。誰が打つのかと思ったらセッターが相手コートに強打を打ち込み普通に決める。エースとクイックに打たせる大塚に対しあちこちから打ち込む常翔、序盤からどちらが勝つかわからない攻防が続いた。

 

第1セット終盤、常翔が大塚に並んだ。「器用さ光る攻撃的セッター」と称された彼がバランスを崩しながらも相手コートにボールを押し込み同点に追いついたのだ。同時に足を引きずる仕草を見せたものの、なんとかコートに立ち切った。

結局そのセットは大塚が獲ることにはなったが常翔の勢いは落ちなかった。

 

第2セット序盤から連続で得点を重ねた常翔は大塚を大きく引き離し、ゲームの主導権を奪い返す。目の離せなくなるような攻撃の応酬に、大塚は堪らず3年生の司令塔を投入し反撃を図る。それでも常翔は譲らない。点差を縮められてもなお冷静に取り返し、再び大塚からセットを奪った。会場からは一際大きな歓声が上がった。

 

またもやフルセットの戦いに持ち込んだ。去年は清風と、今年は大塚と、もう2枠をやすやすと拐われるような常翔ではない。

 

 

序盤からサイドアウトの取り合い、大接戦が繰り広げられたファイナルセット。中盤、ついに常翔セッターの彼がコートに倒れ込み、会場からあっという声が上がる。第1セットのあの時からここまでよく持ったものだと思うけれど、どうやらこれ以上動けそうになく後を託しコートを出ることとなった。さらにそれまでにサーブで足を攣ったらしい主力のオポジットの選手も一時コートを離れた。常翔を襲うイレギュラー、それでもなお彼らは冷静だった。

代わって入ってきた選手は笑顔でチームに声をかけ、これまで以上に3年生の得点力が光り、レフトの2年生も2段トスをしっかり打ち切る強さを見せ大塚に食らいついた。セッターの彼はコートのそばで祈るような仕草を見せた。

 

長い長い苦しい攻防、最後まで「絶対にただでは通さない」という強い意志を曲げない常翔の面々の姿が目に焼き付いて離れない。「死闘」だった。

 

 

最後のボールは再び、常翔のコートに落ちた。

 

 

 

 

全国の空を渇望した「覇気」の子たちへ

 

どうしても観戦したくてスケジュール帳に書き込み、半年間待ちわびたこの試合。インターハイ予選で初めて目にしてから、夢中になった彼らのバレー。

悔しいことに自分の体がダウンしてしまいどうしても現地に向かえず画面の前で応援することになってしまったけれど、そのおかげでまだ知らなかった彼らにまつわる話を解説者から聞くことができた。

 

「自分たちの代は入学した頃からあまり期待されていなかった」

「自分たちが初の全国に行って歴史を変えたい」

 

彼ら自身が、そう話していたのだそうだ。それを聞いて彼らがこれにかけてきた思いの大きさを改めて知った。胸が詰まるような気持ちになった。毎日どんなに頑張ったのだろう。

 

 

全国には行けなかったけれど、それでもこの代で確実に歴史は変わっていると、ただの彼らのバレーのファンとして伝えたい。

「入学した時からあまり期待されていなかった代」ではなく「満身創痍で司令塔を欠いても主力を欠いても全員で食らいつきここまで大塚とやりあった代」だ。少なくとも6月まで常翔のバレーを1ミリも知らなかったようなわたしが、こうやって夢中になって観戦した代だ。

 

自分だけじゃない。まわりにも、先日の春高中継で常翔を初めて見たにもかかわらず涙ながらにあなたたちのバレーを応援した人が何人もいるのを知っている。試合を見て「高校バレー面白い」と思った人がいるのも知っている。

 

 

そんな話で彼らの全国の夢が報われるわけではないけれど、またすぐに苦しい戦いが再び新しい代に襲いかかるのだろうけれど、それでも来年もその次もまたその次も応援し続けたい。彼らがボールを追いかけ夢を叶える姿を見届けたい。

 

 

見ている者を虜にするあなたたちのバレーがいつか、全国のコートを翔ける日を願って。

 

 

sportsbull.jp